SF作家の”ゲイの檻”−「トマス・M・ディッシュ」

今月のSFマガジンに「トマス・M・ディッシュ」の追悼特集が掲載された。

S-Fマガジン 2009年 05月号 [雑誌]

S-Fマガジン 2009年 05月号 [雑誌]

個人的に「ディッシュ」といえば「334」だ。
この本だけは、読んでおくべきだと思う。ただし、入手困難、サンリオSF文庫は総じて古本でも高値です。
そこで、あらすじが記載もこちらをどうぞ。334 (novel) - Wikipedia
プロットを読んでも、実際に作品を読む際にはなんの支障もない。凄まじい出来の大傑作だから。
大体、傑作小説って(ミステリは除外)ストーリーを知っていても”謎解き”がメインではないから、問題なくのめり込めるでしょう?
(比較するのに無理があるが、カフカディケンズドストエフスキーetcの例を想像してくれれば分かると思うんですが)。

閑話休題
サンリオSF文庫の作品をこれから探そうとする人は驚くと思います(「334」は約4,000円)。
多分一番高値の「生ける屍/ピーター・ディキンスン著」*1は、いまヤフオクでみたら100,000円で出品されている。*2
スーパー源氏で調べると80,000円。誰が買うか!!!
気になって「暑い太陽、深海魚/ミシェル・ジュリ著」を調べると23,000円(これでも相場では安く感じる。金銭感覚が狂う)。
昔は岩波文庫の絶版が高値で取引されてたけど、”0”が一つ多いんじゃない?
買う人がいるのかな?
ついでにネットでブラブラしていると「サンリオSF文庫の部屋」サンリオSF文庫の部屋というのを発見。読むと、”怪しげな本&ききめ*3(全集ではないけど)”(=高値?)は大体持っている。(別に自慢しているのではありません)。
また、このサイトに”紹介文のあら探し”というのがありますが、「蛾/ロザリンド・アッシュ著」の後ろの文庫紹介欄に”××××誤訳(→××××翻訳の間違い)”という出版ミスがあったことを思い出す。サンリオSF文庫は、作品によっては翻訳の酷さが目立ち、わざとじゃないか?と色々憶測を呼んだものです。(その後”誤訳”の上に”翻訳”というシールを貼る処置がなされた)。*4
閑話休題終わり》


さて、この記事では”ゲイのSF作家”を論じる(というよりダラダラ書き散らす)?つもりなので、「トマス・M・ディッシュ」の作品内容に立ち入って述べのべることはしません。(もう十分研究されているし、自分の拙い意見を書くのは無駄だと思う)。

By 1970, Disch had returned to Manhattan, where he lived with his partner, Charles Naylor. He had been publishing poetry very widely, and in the 1970s there were many readers of Tom Disch who knew nothing of the prose writer.


http://www.independent.co.uk/news/obituaries/thomas-m-disch-poet-and-writer-of-deathhaunted-science-fiction-who-won-plaudits-for-camp-concentration-863874.htmlより

彼は、SF作家としては知られていたが、散文家としての知名度は著しく低かったようだ。

上記に出てくる、ディッシュのパートナー”Charles Naylor (チャールズ・ネイラー)”は、早世してしまうのだが、それは下記に。

Openly gay since the late 1960’s, Disch’s partner of thirty years, Charles Naylor (who collaborated with him for the novel Neighbouring Lives published in 1981) died of cancer in 2004. This loss, as well as the financial burdens caused by Naylor’s illness clearly took their toll. A collection of poems loosely based around the grief he felt after Naylor’s death entitled Winter Journey is due for publication later this year.


http://www.pantechnicon.net/index.php?option=com_content&view=article&id=261:sf101-camp-concentration-by-thomas-m-disch&catid=19:articles&Itemid=60より

At the time of his death he was reported to have been depressed for several years, and badly hit by the death of his longtime partner, Charles Naylor, as well as fighting attempts to evict him from his rent-controlled apartment.


Thomas M. Disch - Wikipediaより

ゲイがパートナーを失うというのは非常に辛い。不運も続いたようだし。

Disch's private life remained private, for the most part. He was publicly gay since 1968; this came out occasionally in his poetry and particularly in his 1979 novel On Wings of Song*5; He did not try to write to a particular community: "I'm gay myself, but I don't write 'gay' literature." He rarely mentioned his sexuality in interviews, and it did not seem to be part of how his readers regard him.


Thomas M. Disch - Wikipediaより

上記文章中(赤文字箇所)で、「私はゲイだ、だがゲイ文学については書かない」と彼ははっきりコメントしている。
また、ゲイコミュニティへの積極的参加をも否定している。
この辺の事情を下記に。

DH: Have you been held up as an icon or model for the gay community?

TD: Scarcely at all. I was pleased when a book called The Gay Canon *6included On Wings of Song I thought, well, finally! they seem to notice me. But just as the book was published, and its author was to go on tour, he was almost killed by a gay-basher in Dublin.


Strange Horizons - Interview: Thomas M. Disch By David Horwich

つまり彼は、世間に吹聴するタイプでも、LGBT運動(当時はいまほどではなかった)などに自ら進んで参加するタイプでもない、ごく普通のゲイだった。
”SF作家がゲイだった”のではなく”ゲイがSF作家になった”ということ(当たり前だが強調しておきたい)。
そして、「歌の翼に」*7や「ビジネスマン」(偏見に満ちたゲイ男性が登場する)などの作品と”彼がゲイだった”ことはなんら関係が無いのだ。
と、ゲイサイドからは感じる。彼は現実という”リスの檻”*8ならぬ”ゲイの檻”に不条理に放り込まれたSF作家だったのではないか?
トマス・M・ディッシュがゲイだからといって、その作品から”ゲイ”を読み取ろうとするのは下賤な行為だ】*9


SFに縁のない方、「トマス・M・ディッシュ」を知らない方にはまず、手頃に読める本を推奨しておく。
↓これ素晴らしい!!!

アジアの岸辺 (未来の文学)

アジアの岸辺 (未来の文学)

(若島正氏のアンソロジーはハズレがない。「リスの檻」・「降りる」に加え、「アジアの岸辺」等々も読める短編集です。これで面白くないという人がいたら・・・???)



自分が最初に「トマス・M・ディッシュ」の名を知ったのは「人類皆殺し」。その従来のスペースオペラ的ストーリー展開を断固拒否した作風と、暴力的な推進力でアンチ・ハッピーエンドで終わる圧倒的迫力に驚いた。
そして、傑作短編「リスの檻」*10や「降りる」を雑誌やアンソロジーで読み、たちまち虜に。
続いて、「キャンプ・コンセントレーション」、「334」で、重苦しくペシミスティックだが、一種の世紀末的魅力というか廃墟的趣向、頽廃ムードの作風に蠱惑される。



以上、英語を訳するのが面倒なので(怠け者のゲイなんです)、多すぎる英文引用について、取り敢えず謝罪しておきます。

とりとめの無い記事?になったが、あまりに無内容なので、「プリズナー」のYoutubeを紹介しておく。
(TVシリーズの「プリズナー№6」の原作ではないが、設定が同じなので雰囲気だけでも。)
(このことはプリズナーNo.6 - Wikipedia参照してネ)

トマス・M・ディッシュ」の映像化作品は他に無いハズ。これはよく考えると不思議だな。



同じSF畑で、「アーサー・C・クラーク」もゲイ(バイセクシュアル)だった。ただ、彼は頑なに否定し続けた。その事実と「トマス・M・ディッシュ」のケースを当初比較する予定だったが、止めた。*11
何故なら、「アーサー・C・クラーク」の偉大な作品群と活動には、ゲイの要素などこれっぽちもないからだ。*12
これは、ゲイ作家とその作品間になんら”ゲイという媒介要素”が存在しない典型的かつ希有な例だと思う。
(参照:Arthur C. Clarke - Wikipedia)
アーサー・C・クラークとゲイ」なる考証をする人は、”幼年期を終えてない”としか云いようが無い。

幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))

幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))

*13
アーサー・C・クラーク」を未読の方へ。映画「2001年宇宙の旅/2001: A space odyssey 」が「S.キューブリック」と「アーサー・C・クラーク」の共同脚本だということを忘れていませんか?
彼の小説への言及が出来ないので(今更ながらですが)、Youtubeからラストシーンを。

*14


P.S.「トマス・M・ディッシュ」氏は2008年7月4日に拳銃自殺。「アーサー・C・クラーク」氏は2008年3月19日に死去(タイムズ誌にも訃報記事が掲載された。参照:Home Page – The TLS)
奇しくも、同年に逝去した偉大な作家のご冥福にたいして合掌。
願わくば、この記事がお二人の名誉を中傷する主旨と誤解されないことを祈ります。

*1:ミステリ作家としても有名。「ガラス箱の蟻」と「英雄の誇り」でイギリス推理作家協会(CWA)賞のゴールド・ダガー賞を受賞。

*2:せどり”にも限度があるだろう!

*3:古本用語の一つ

*4:この情報に興味ある方には教えます。

*5:「歌の翼に」邦訳 サンリオSF文庫国書刊行会から刊行予定だそうだ、めでたい!

*6:http://www.amazon.com/exec/obidos/ASIN/%200385492286/ref=nosim/strangehorizons

*7:上記引用文にもこの作品が同性愛と関連があるとあるが、自分はそういう解釈を取らない。

*8:初期の傑作短編

*9:暇な学者や専門家がやりそう。しつこく繰り返すが”誰それがゲイではないか?”とアレコレ調べるのは基本的に認めない。そういいつつ自分自身興味はあるが。

*10:吾妻ひでおの漫画「不条理日記」(星雲賞コミック部門受賞の方です)にも登場。今、手に入るのかな?

*11:アーサー・C・クラーク」の意志を尊重して。探せば幾らでも彼がゲイorバイセクシュアルだという記述は、そりゃありますよ。

*12:中性的なキャラクターが登場する?それがどうした!だったらSF作品のほとんどはゲイノベルになるぞ!!!なんでもありがSFだろう。

*13:読まずに死ねるか!

*14:久し振りにみたなぁ、懐かしい!古くない!