イヴ・タンギー(Yves Tanguy)-孤独

イヴ・タンギーの家 (by アンドレ・ブルトン


イヴ・タンギーの家
そこには夜にしか入れない
   嵐のランプをもって
外は透明な地方
占い師の得意な壇場
   嵐のランプをもって
   あんまり働くので目にもとまらぬ製材所とともに
そして空のクレトン更紗
   きみよ、超自然を狩れ
   嵐のランプをもって
   あんまり働くので目にもとまらぬ製材所とともに
   サクレ・ブルーのすべての星とともに
彼女は投縄、支柱の子
泳ぐザリガニの色をしている
   嵐のランプをもって
   あんまり働くので目にもとまらぬ製材所とともに
   サクレ・ブルーのすべての星とともに
   ただ一本のアンテナでどこへでも連れ戻される電車とともに
つながれた空間、縮小された時間
おのれの箱部屋のなかなるアリアドネ   
   嵐のランプをもって
   あんまり働くので目にもとまらぬ製材所とともに
   サクレ・ブルーのすべての星とともに
   ただ一本のアンテナでどこへでも連れ戻される電車とともに
   ふね蛸の果てしないたてがみとともに
彼女たちの眼は蔽われている
スフィンクスたちがもてなしてくれる
   嵐のランプをもって
   あんまり働くので目にもとまらぬ製材所とともに
   サクレ・ブルーのすべての星とともに
   ただ一本のアンテナでどこへでも連れ戻される電車とともに
   ふね蛸の果てしないたてがみとともに
   稲妻を放つ砂漠の家具とともに
そこでは殺害が行われ、そこでは傷が癒える
そこでは隠れ家もなしに陰謀が企らまれる
   嵐のランプをもって
   あんまり働くので目にもとまらぬ製材所とともに
   サクレ・ブルーのすべての星とともに
   ただ一本のアンテナでどこへでも連れ戻される電車とともに
   ふね蛸の果てしないたてがみとともに
   稲妻を放つ砂漠の家具とともに
   遠くから恋人たちが交わし合う合図とともに
それがイヴ・タンギーの家だ

アンドレ・ブルトンは文学者としては二流の存在だった。その中で異彩を放つこの詩を引用してみた。

理由はただ一つ「イヴ・タンギー」を紹介したかったから前振りとして。
(一応知らない人の為に→イヴ・タンギー - Wikipedia)これじゃなんにも分からないので、
英語版も→Yves Tanguy - Wikipedia

タンギーは、「ジョルジオ・デ・キリコ」や「ロートレアモン」に熱狂していたというから、元々シュルレアリストとしての資格に問題はなく、すんなりとブルトンらとともに、最初期のシュルレアリスト・グループに加わっていった。

先にブルトンは二流と書いたが、芸術運動のターニング・ポイント(=「シュルレアリスム宣言」、最初の方。)の立役者としての意義は認める*1
事実、ブルトンのもとから、多くの優れた芸術家が巣立っていった*2
(その後のブルトンの指導者としての凋落は御存じの通り)

初期の頃から、タンギーの絵には、生涯を通じて描かれる不思議なオブジェと茫漠とした砂漠のような背景しかない。*3

”不思議なオブジェ”と称したが、当初は”生命体”を連想させるものだった。

これは彼が、幼少期にブルターニュ地方のロクローヌ*4という街で過ごしたこと&船乗りとしての経験をもっていたことと関連がある(と自分は勝手に推測している)。

そう、彼の”不思議なオブジェ”は作風の初期に於いては、海辺の潮溜まりなどにいる貝・ウミウシなどの類の軟体生物or無脊椎生物だったと邪推している。
そう考えると、背景は決して”砂漠”ではなく、果てしなく拡がる海岸の砂浜と解釈できる(しつこいが自分の考えです)。

そして第一次大戦を経て、アメリカに移住するのだが・・・。



閑話休題
美術に関してはブログに向いていないとつくづく思う。
何も、作品の写真の著作権やHTMLの話をしているのではない。
”絵画(に限らず美術全般)は見る”ことを前提としたアートなのだから、文章であれこれいっても仕方ないし、自分にはそんな能力も知識もない。
にもかかわらず、この文章を書いているのは適当なYoutubeを見つけたことと、タンギーを知って欲しいという目的から。

だから、稚拙な次元の低いことをダラダラと書いたことを先にお詫びし、
あくまでも”タンギーがただ好き”という”見た目は大人、頭脳は子供”の所業として容赦願います。
ネットで見る事の出来るサイトを紹介

美術について書くのは、本当に困難だと思う。その第一の理由は、現代美術以外は、テクノロジーの進歩により次々と新発見が続いていること。
(だから、自分は「ダ・ヴィンチコード」を数ページ読んで、そのご都合主義&誤解に嫌気が差して読むのをやめた。)
その他にも問題が多いのだが、ここには書かない(主旨から外れるので)。
閑話休題終わり》



タンギーアメリカに移住してから、彼の作風は変化していった。
生命体の息吹を感じる”不思議なオブジェ”が、無機質の物質へと。
そして、それら金属をも思わせる変化したオブジェは、数を増し、複雑に絡み合うように次から次へと増殖を繰り返していく。

   タンギーはこつこつと
   報告書を記すように
   静かに描いている


その物体は空の果ての骨片の山のようにも思われ、また海底の遺失物のようにも見える。無秩序の秩序ともいうべきその物体は、何かの墜落した結果のようでもあり、人目につかぬ土地に発芽し、生成した植物のようでもある。それらはかたいようでやわらかく、やわらかいようでいて、岩石のよういかたい。



彼方を見つめるタンギーの視線by 飯島耕一

個人的なことだが、いままで二枚の絵画のレプリカを気に入り、わざわざ額縁を作製依頼した。
その一枚が下記の作品だ。
タイトルは「弧の増殖/Multiplication de arcs」
*5


駄文を終えてYoutube紹介。




(フランス語なんて、知らなくてもフィーリングで理解出来る。音楽もGOOD!)

P.S.1.自分は他のシュルレアリスト画家も勿論大好きですが、作品の素晴らしさの割に知名度が低いのでタンギーを紹介しました。
P.S.2.やはり絵画は”見る”に限る!参考本を下記に。

Yves Tanguy and Surrealism

Yves Tanguy and Surrealism

P.S.3.重要な作品「想像上の数/Nombres imaginaires」が紹介したサイトでは見れません、残念。
彼の作品を見る事の出来るリンク集を→Yves Tanguy Online

*1:だが、如何せんブルトン詩の才能に欠けていた

*2:離別といっても、意見の相違といってもよい。だがタンギーは不思議と晩年アメリカ時代もブルトンと友好が続いた。

*3:最初期のタンギー自身が破棄した作品が残っているが、それは除く。

*4:「フランスの最も美しい村々」に選ばれている。

*5:注:これ下記に紹介した河出書房新社の『骰子の7の目(第9巻)イヴ・タンギー』の表紙では"孤の増殖"と誤植になっていた。"弧=ARCH",日本にラルクアンシエル(=虹)というバンドがいるでしょう。それを想像してもらえば話ははやい。なぜSという文字が付くのかって?それこそ自分で調べて欲しい(虹の複数形を説明する程、暇では無い)。さて、タンギーの傑作ではグニャグニャした曲線からなる正体不明の物が多く描かれている。なかでもこの作品に関しては言えばタイトルは"孤(孤独の孤)"が相応しいと思う。こういう偶然のミスが面白い一例を挙げる。或る画家がゲラチェックの段階で、"鳥が動くよ"が"島が動くよ"と指摘された。でも、その画家は誤植の方が良いと周囲に言われて出版したら大好評。以上、放棄したブログを一部訂正しました。はてなも変わっているのでビックリした。