『エソルド座の怪人』−未知の作家が溢れている!
『エソルド座の怪人』は、「異色作家短編集」の最新版の最後第20巻で、旧版にはなかった世界各国の作家のアンソロジー。
- 作者: G・カブレラ=インファンテ・他,レイモン・クノー,ナギーブ・マフフーズ,若島正
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/03/31
- メディア: 単行本
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まず全11作品の並びが抜群だ。エジプトのノーベル賞作家の軽いジャブからはじまり、冷戦時代のチェコの重い作品でズシリと来た後に、カナダ、ウルグアイ、フランス、ポーランド、イタリア、台湾!、ベルギー等と続き、締めくくりにキューバの(問題の)表題作で終わる。この順番にした編集者の「若島正」氏の慧眼は凄い。
他の巻と違い、個々の作品&作家別に感想を述べる。
- 「容疑者不明」ナギーブ・マフフーズ
- 「奇妙な考古学」ヨゼフ・シュクヴォレツキー
- 「トリニティ・カレッジに逃げた猫」ロバートソン・ディヴィス
- 大学に居着かない猫を巡り、フランケンシュタインなどを取り混ぜた軽妙な作品。
- 「オレンジ・ブランデーをつくる男たち」オラシオ・キローガ
- ウルグアイ出身の作家だが、その生い立ちが凄惨過ぎる。父親の事故死に始まり、養父・妻・本人・長女・長男・友人達らがすべて自殺している。作品は、「ポー」の一作といわれても分からないだろう。"アルコール"で狂気に至る人々。
- 「トロイの馬」レイモン・クノー
- やっと知った作家だ。クノーらしい、ユーモア溢れる不思議な話。軽く楽しめる。(理解不能な箇所あるも、それはクノーだから仕方がない)。
- 「死んだバイオリン弾き」アイザック・バシェヴィス・シンガー
- 「ジョバンニとその妻」トンマーゾ・ランドルフィ
- イタリアの作家で、わずか数ページの"音痴"を扱った表現に困る作品。他の作品の邦訳もあるらしいので、入手してみようと思う。
- 「セクシードール(有曲線的娃娃)」リー・アン(李昴/Li Ang)
- 何と台湾の作家。アメリカ留学後、帰国して台湾で作家、コラムニスト、TV評論家として活躍。2004年にフランス政府より"青い騎士勲章"を受賞。全然知らんかった。この作品も、表題作と並ぶ問題作で、女性にしか絶対書けないもの。"女性の性"が主題としかいいようがない内容。
- 「金歯」ジャン・レイ
- ベルギーの怪奇・探偵小説作家。「セクシードール」の鬱屈とした後の一服の清涼剤的作風。気軽に楽しめる。
- 「誕生祝い」エリック・マコーマック
- 「エソルド座の怪人」G・カブレラ=インファンテ
- キューバ生まれでハバナで出版活動をし、後カストロ政権と対立してロンドンへ。スペイン語と英語で書く多言語作家。 さぁ、この作品が当アンソロジーで一番の問題作。一応「オペラ座の怪人」をベースにしているが、ブライアン・デ・パルマの「ファントムオブパラダイス」を織り込み、言葉遊び・文学や映画等からの多数の蘊蓄と引用で埋め尽くしたストーリーは一読では理解し難い?トリをつとめるのにふさわしい"大問題作"。個人的に、これは是非原著を読みたい!と思った。
エソルド座は、ロンドンのキングス・ロードにかつて実在した映画館である。それが1973年に閉館になり、改装されて劇場となってからは、ミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』がそこでロングランになった。その幻の映画館で、『オペラ座の怪人』から『ファントム・オブ・パラダイス』までを混ぜ合わせた映画が上演されるこの「エソルド座の怪人」は、いかにも映画狂らしいカブレラ=インファンテの怪作である。
一応(有名だけど)デ・パルマの『ファントム・オブ・パラダイス』を。
P.S.カブレラ=インファンテが、映画マニアだったことから「オペラ座の怪人」の映画を好んで、この「エソルド座の怪人」を書いたと思われるが、映画には複数のヴァージョンがある。ロン・チェイニーへの言及があるが1925年のものは古すぎないか?(彼は1929年生まれで2005年に逝去)
ひょっとすると、全てのヴァージョンを観ていた可能性もある。参照:オペラ座の怪人 - Wikipedia