ルイス・ブニュエル賛

ルイス・ブニュエル(Luis Buñuel)といえば『アンダルシアの犬』ばかり喧伝されているような気がする。

ストーリーとしては何が何だか全然わからないっていうようなもんなんですが、夢を描くのも現実を描くのも同じ映像なのだ、素材は同じだと思うと突然わかる。事実ブニュエルとダリがそれぞれ、自分の見た話し合ってシナリオにしたっていうんです。

「対談 目から脳に抜ける話」吉田直哉 養老孟司

(ちなみにボルヘスは自身の視覚障害故にこの作品、特に冒頭の眼球切断シーンを嫌悪したらしい)

彼の作品がBOXセットで発売された時に即購入し、未だに繰り返し観ている。勿論全巻なんて買えない(微笑)
ブニュエル作品私的BEST3は

  1. 『皆殺しの天使』
  2. 『自由の幻想』
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  3. ブルジョワジーの密かな愉しみ』
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では動画を紹介(『皆殺しの天使』はなんと全部Youtubeにあるのだが、字幕無しは辛い。が、どうしても観たければ”El ángel exterminador 4 de 9”辺りが雰囲気伝わります)ここでは英語版字幕付きの『自由の幻想』と『ブルジョワジーの密かな愉しみ』の2つを順にUP)

 
自分がベスト3に挙げた作品は特に”不条理”だとか”シュールレアリズムの影響”が尾を引いているとか言われているが、それは的外れだろう。

晩年の『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』にしても「なぜか食事にありつけない人たち」のエピソードが延々と続くだけなのだが、そのエピソード自体を愉しむように仕向けられる。世界の映画人の中でのブニュエルの高い人気は、こうした解釈を拒否して映画自体で楽しませようとする姿勢にあると考えられる。
こうした姿勢は『ブルジョワジーの密かな愉しみ』や『自由の幻想』の中では特に貫徹されており、不可思議なエピソードが能天気なまでに脈絡なく続き、それぞれのシーンも投やりで撮影したとしか思えないほどである。例えば『自由の幻想』での「連続乱射犯の流れ弾で街路樹から落ちる鳥」のシーンでは、剥製としか見えない鳥が樹からボトっと無機質に落ちるだけである
ルイス・ブニュエル - Wikipedia

確かにブニュエルの熱狂的ファンは”解釈を拒否した映像の快楽”にこそ魅せられたはずだ。『昼顔』(カトリーヌ・ドヌーヴ主演)、『小間使の日記』、『哀しみのトリスターナ』(少し異様なシーンもある)などは傑作だがいまいち自分の趣味では無い。むしろ、映画館で観た『銀河』(La Voie lactée 1968)のような奇妙な映画の方がずっと良い。これはキリスト教異端事典に基づき脚本が書かれていてると今回初めて知った。

ブニュエル映画について語る上でキリスト教は避けて通れない話題である。少年時代に厳格なイエズス会の学校に通わされた反発と、アナーキーなシュールリアリズムからの影響で、ブニュエルは自分のことを筋金入りの無神論者と自称していたが、実際には愛憎半ばする感情をキリスト教に抱いていたものと思われる。

『黄金時代』と『ビリディアナ』がキリスト教を茶化しているとされて上映禁止にされた話は有名だが、その一方では歴史上実在した柱頭修行者聖シメオンを描いた『砂漠のシモン』という作品もある。この映画では最後にシモンが悪魔の誘惑に負けるので反キリスト教的作品と見ることは可能だが、純粋な行者であるシモンに対する悪意を映画の中に感じることはできない。また、メキシコ時代には純粋無垢な神父を描いた『ナサリン』という映画があり、アメリカのカトリック教会から賞も貰っている。「純粋無垢な神父」を描くことでカトリックを馬鹿にしたのか賞賛しようとしたのか、ブニュエルの真意は一筋縄では捉えられないのだが、相反する感情を抱いていたと考えるのが妥当と思われる。『銀河』に至ってはキリスト教の異端事典を元に脚本が書かれている。
ルイス・ブニュエル - Wikipedia

で、ようやくスペイン語のみで字幕無しではない『銀河』のホンの一部を味わえる動画をようやく見つけたのでご紹介します。(彼のキリスト教に対する態度の一片は分かるかな?)
ちなみにブニュエルはガルシア・ロルカとも親しかった。

参考文献

ブニュエル、ロルカ、ダリ―果てしなき謎

ブニュエル、ロルカ、ダリ―果てしなき謎

ルイス・ブニュエル著作集成

ルイス・ブニュエル著作集成